皆さんこんにちは。AMedTech代表の天野です。
医療機器や体外診断薬の開発に関わっていると、「バリデーション」と「ベリフィケーション」という言葉がよく出てきます。どちらも日本語では「検証」や「確認」と訳されることがあり、混同されがちです。しかし、この二つは似た言葉でありながら、実際には見ている対象が大きく異なります。
簡単に言えば、ベリフィケーションは「決めた通りにできているか」を確認する作業です。一方、バリデーションは「そもそもその決め方で目的を達成できるのか」を確認する作業です。
たとえば、ある測定装置について「37.0℃の標準温度を測ったとき、36.9〜37.1℃の範囲に入ること」とあらかじめ定めたとします。その装置で実際に標準温度を測定し、この範囲に入るかを確認するのがベリフィケーションです。つまり、すでに定められた仕様、目標値、受入基準に対して、装置や測定系が正しく動作することを確認する作業です。
これに対して、バリデーションでは少し視点が変わります。たとえば、「この測定装置は人の体温を測る目的に使ってよいのか」「この検査は、対象となる疾患を正しく判定する目的に使えるのか」という、より上位の問いに答える必要があります。つまり、バリデーションとは、測定系や医療機器が、その意図された使用目的に対して妥当であることを確認する作業です。
この違いは、体温計を例にするとわかりやすいかもしれません。
風邪をひいたかもしれないと思って体温を測るとき、普通はキッチン温度計を使いません。キッチン温度計も温度を測る道具ではありますが、人の体温を測る目的で設計されているわけではありません。測定範囲、精度、応答性、衛生面、表示方法、校正や品質保証の考え方などが、医療用途として十分かどうかは別の問題です。
では、非常に高精度で正確な白金抵抗温度計であればよいのでしょうか。これも答えは単純ではありません。白金抵抗温度計は、温度そのものを高い正確さで測ることには優れているかもしれません。しかし、人の体温を測る医療機器として求められるのは、単に「一瞬の温度を正確に測ること」だけではありません。日本の電子体温計の規格であるJIS T 1140:2024は、最高温度保持機能をもち、内部電源で作動し、熱伝導式の感温素子で測定した人の体温をデジタル表示する電子体温計を対象としています。
したがって、いくら温度測定そのものが優れていても、体温計として必要な表示保持機能、使用者が正しく読める表示、人体への適用性、使用環境、清掃・衛生、リスク管理などを満たさなければ、体温測定用の医療機器として妥当とは言えません。ここで問われているのが、まさにバリデーションです。
体外診断薬や医療機器の分野では、バリデーションはさらに大きく二つに分けて考えることができます。一つは分析的バリデーション、もう一つは臨床的バリデーションです。
分析的バリデーションでは、測定系そのものがどの程度正しく、安定して、再現よく測定できるかを確認します。具体的には、正確性、精度、繰り返し精度、中間精度、検出限界、測定範囲、分析特異性、干渉物質の影響などが対象になります。CAPの公開資料でも、LDTや改変されたFDA承認・認可済み検査について、分析的正確性、精度、分析感度、分析特異性などを評価する考え方が示されています。
一方、臨床的バリデーションでは、その検査や医療機器が、実際の対象疾患や対象患者に対して、意図した臨床的な判断を正しく支援できるかを確認します。たとえば、ある検査が「特定の疾患を検出できる」と主張するのであれば、実際の患者検体や適切に特徴づけられた臨床検体を用いて、その主張が妥当であることを示す必要があります。
ここで重要なのは、バリデーションでは単にサンプルをいくつか測ればよいわけではない、ということです。どの程度の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、あるいは一致率が必要なのか。その性能を示すために、どのような検体を、何例、どのような統計設計で評価するのか。これらを考えること自体が、バリデーションの重要な一部です。
公開されているCAP All Common Checklistの抜粋では、検査室が診断感度や特異度、疾患リスク予測などの臨床的主張を行う場合、その主張は妥当性確認されなければならず、臨床的妥当性が査読付き文献や教科書で裏付けられていない場合には、臨床バリデーション試験を実施し、少なくとも20サンプル、かつ陽性・陰性の両方を含めることが記載されています。
ただし、この「20サンプル」はあくまで最低限の目安と考えるべきです。実際に承認申請や実用化を考える場合には、対象疾患の有病率、期待される性能、許容される誤判定リスク、検出したい効果量、統計学的検出力などを踏まえて、必要な検体数を設計する必要があります。患者さんの診断や治療方針に影響する検査であれば、なおさらです。
ベリフィケーションは「決められた仕様を満たしているか」を確認します。バリデーションは「その仕様や性能が、目的に対して本当に妥当か」を確認します。そして多くの場合、バリデーションでは、どの性能をどこまで満たせばよいのか、すなわち受入基準や目標値を定めることも重要な作業になります。
医療機器や体外診断薬の開発では、技術的に測れることと、医療上使えることは同じではありません。高精度な測定ができることと、臨床現場で安全かつ有用に使えることも同じではありません。この違いを理解することが、開発の手戻りを減らし、承認申請の質を高め、最終的には患者さんにとって有用な製品を届けるための第一歩になります。